下ぶくれ日記

求職中の暇を持て余した中年主婦が書くたわいもないブログです。

【昔の思い出】台風の日に出会った親切な親子

 

 

 

【交番で立ち往生。困った……】

 

20代の頃の話。

 

台風直撃。私は、職場にいた。雨風がひどくなる前に車が浸水しそうなところに停めている人は移動するようにと指示があった。外に出たあたりから急に雨風がひどくなってきた。怖いくらいの雨風だ。こんなことなら移動させなくても大丈夫だったかも。外に出た方が危ない。

 

なんとか車を移動させて会社までタクシーで帰ることにした。タクシー捕まったのはいいけど全然前に進まない。冠水しているところに車がはまってしまって大変なことになってるっぽい。

 

警察に止められてここから先は危ないので進めませんと言われた。でも、そこを通らないと会社に帰れない。いろんなところが通行止めになっている。

 

「お客さんもう降りて歩いた方が早いかも」と言われた。ずっとタクシーに乗ったままで一向に進まないし、もう降りるしかなかった。

 

私はタクシーを降りた。水がどんどん溜まってきて、膝くらいになってた。怖い。めちゃくちゃ怖い。風も雨ももっと強まっていた。

 

警察の人に冠水していきなり深くなってるところがあるから行かないでと言われ進めない。近くに交番に入った。とにかくかなり時間が経っているので会社に電話しなくては。携帯はパンク状態で全く繋がらない。

 

交番の電話を使わせてもらうことにしたが、かなり並んでいる。やっと会社に電話つながった、とりあえずまだまだ帰れそうにないとだけ上司に伝えてと電話を切った。後ろの人も持っているので。

 

交番の中にも水が入ってきた。怖い。私はどうしていいかわからずただただ交番で怯えていた。警察は出払っていなかったけど、人がいるところの方が安心する。迎えの人が来たりして、だんだん人が出ていく。まだ雨風ひどいのに。

 

急に暗くなった。停電?交番の電気が消えた。まだ昼間だけど薄暗くて怖い。

 

途方に暮れて外を見ていると、こっちに向かって新聞記者っぽい人がパシャっと写真を撮っていた。こんな姿、大きくでたら嫌やな〜

 

 

 

【見ず知らずの中年男性について行くことに】

 

もう人がほとんどいなくなっていた。中年の男の人と私だけだった。

 

その人も出て行こうとしていた……が、私の顔を見て立ち止まった。捨てられた子犬のような目をしていたのだろう。

 

うそやろ。行かないでー。お願い。怖い。一人怖いよー。心の声が伝わったのか?

 

その人が話しかけてきた。「もう埒があかないので、歩いて家に帰るんですけど。どうされるんですか?」

 

「タクシーでは帰れないし、職場までもうどうやって帰ったらいいかわからないし。自宅は1時間以上くらいかかるところにあるので無理だし。どうしようかと。」

 

「そしたら、とりあえずうちに避難します?結構歩きますけど。橋も通らなければいけないのでちょっと危険ですが。」と言ってくれた。

 

「いいんですか?ありがとうございます!!!一人でここにいるの怖くて。」

 

神……。もうここに一人取り残されるより全然いい。南こうせつに似ている。40代だろうか?いい人感が滲み出ている。この人なら大丈夫だ。

 

「自分は、商店街の近くでお店をしているマシマと言います。母親と同居しているので、安心してください。」

 

うあ、ちゃんとしてる人だ。よかった。

 

そこから、マシマさんの家までは、想像を絶する遠さだった。川や田んぼの水が溢れていて道か道でないか土地勘のある人じゃないとわからない状態だ。冠水してるとこにハマったら大変だ。マシマさんの車は水に使ってしまってもうダメみたいだと言ってた。

 

「あと、もう少しですからね。頑張ってください。」風に煽られる。橋に差し掛かった。荒れ狂った川の水が生きている龍のように見える。怖い。足がすくむ。動けない。マシマさんは、私の腕をしっかり握ってくれた。倒れないように、吹き飛ばされないように。守ってくれた。

 

こんな状況ではあるが「惚れてまうやろ!」って心の中で叫んだ。

 

そしてゆっくりゆっくりだが、どうにか難関は超えた。橋を超えたすぐそばのマンションだった。着いた。もう全身びしょびしょで疲労感が半端ない。でも生きてる。ほんとによかった。

 

 

 

【お母さまとご対面】

 

チャイムを鳴らすと白髪で70代後半くらいの女性が出てきた。この方がお母さんか。お母さんというよりお母さまがしっくりくるような品のある方だ。

 

一瞬びっくりしてたけど、事情を説明する前にタオルを持ってきてどうぞ入ってくださいと言われた。入りながらマシマさんが事情を説明した。

 

「大変だったでしょう。よかったらシャワーしてください。風邪ひくから、着替えた方がいいですね。とりあえず私の服を着てください。」マシマさんのお母さまは、着替えまで準備してくれた。

 

下着も靴下も新品のものを袋から出して言った。「これ使ってないからよかったら。」見ず知らずの人にここまでしてくれる人いる?新品の下着や靴下が家にある人いる?もうお母さまの優しさに涙が出そうになった。

 

雨で体が冷えて寒くて死にそうだった。お言葉に甘えてシャワーさせてもらった。お湯が信じられないくらい気持ちいい。はーありがたやー。

 

その後、お母さまが出してくれた下着を着て、用意してくれた服もお借りしよう。ん?

 



豹柄のカットソーだ。右胸の辺りに小さいバラのコサージュみたいなのがついてる。シニア向けのモダンなデザインだ。ありがたく着させてもらおう。ズボンは、茶色でウエストゴムのスラックスだ。ウエストゴムはありがたい。靴下は、水玉だ。靴下まで貸してくれてありがたい。

 

当時20代だった私はあっという間にシニアになった。

 

風呂から上がって、お礼を言うと「カレー作ったから食べて」とお母さま。玄関にあるびしょびしょの私の靴は、新聞紙がつめられている。

 

どんだけいい人なんですかー。お母さま。

 

お言葉に甘えて私は、カレーまでご馳走になった。エビフライまでのっていた。

私は家のカレーでエビフライがのっていたことなんて一度もないのでそこでまた感動した。

 

外を見た。雨が弱まった。もう風もほとんどない。お母さんとマシマさんが「もう大丈夫そうですね。」と言ってタクシーを呼んでくれた。「ほんとにありがとうございました。見ず知らずの私にこんなに良くしていただいて」

 

この御恩は一生忘れません。お世話になりすぎて、もう頭を地面にこすりつけたいくらいの気持ちだった。ベージュの靴まで貸してくれた。ピッタリだった。

 

 

 

【やっと職場に帰れた!】

 

2人が見送ってくれて私は職場に戻った。もう夜だった。フロアにはもう数えるくらいしか人がいない。みんな早く帰らせたらしい。ガランガランだった。車動かさなければこんなことにならなかったのに。ちょっとサボりたい気持ちもあって、外出たら酷い目にあってしまった。

 

「えらい遅かったな。大丈夫だった?」と大して心配した様子もない上司。

 

サラッと言った後、顔をおろしてもう一度顔を上げた。ギョッとした顔で私の姿を上から下まで見て言った。「どうしたん?その格好」と上司。「話せば長くなるんですが、びしょびしょになったので人に借りました。」

 

「そうか。」なんとも言えない不思議な表情をした。疲労困憊でシニアのようになった私を見て、何も聞かなかった。「もう帰りなさい。気をつけて」と上司が言った。言われなくてももう帰りますけど。

 

まさか私が知らない人の家でシャワーして、着替えを借りて、エビフライカレーまでご馳走になって会社に戻ってきたとは夢にも思わないだろう。

 

会社に残した荷物を取って、また車停めてるところまでタクシーで行って、やっと家に着いた。信じられないくらい疲れた。

 

 

 

 

後日発覚した衝撃の事実!?

 

後日、菓子折りを持って名刺にあったお店を訪ねた。マシマさんのお店だ。ちょっとおしゃれで高そうな服屋さんだ。セレクトショップ?みたいな感じ。

 

「先日は、本当にありがとうございました。ほんとに良くしていただいて……」私は深々と頭を下げた。

 

そして、借りていた服と靴と一緒に菓子折りを渡した。

「これ、つまらないものですが。ほんとに良くしていただいたのに、こんなので申し訳ないですけど、どうぞ」

 

「わざわざすみません。……お気遣いありがとうございます。ほんとに大変でしたね。でも無事帰れてよかったです」と言って慈悲に満ちた仏様のような微笑みを私に向けた。(南こうせつが微笑んでいるようにも見えた)

 

私は、何度もお礼を言って店を出た。

 

それからしばらくして友人に会い、台風の日の出来事を話した。「そんなええ人おるんやな〜。めちゃくちゃええ人やん。で、なんて服屋さん?」私は服屋さんの名前を言った。

 

友人は目を丸くして

「え?その店めちゃ良く行く店や!マシマさん!?マシマさんなん?さっきの話の人?」

 

「そう!マシマさん!!」すごい。世の中は狭い。こんな身近なところで繋がってた。

 

「あの人、◯◯屋の息子さんやで」(地元では有名な銘菓の名前だ)

 

「うそ!菓子折り、◯◯屋の持って行ったわ!おまけに、つまらないものですがとか、こんなもので申し訳ないとか言うてもうた!」やばいやばいやばい。どうしよう。

 



 

「マジかー。それは失礼極まりないなー。やってもうたなー(笑)」と言ってケタケタ笑った。

 

 

どうりでお母さまが上品なはずだ。

 

私は、笑えなかった。あんなに良くしてもらった人に最後、超失礼なことしてしまった。

 

後日、その友人とまたマシマさんのお店に行った。2人が友達だったことに驚いていた。罪滅ぼしに何か買おうと思ったけど高い。友人、ここの行きつけとかすごいな。結局、その店で一番安いであろうハンカチだけ買って、先日の無礼を詫びて帰った。

 

世の中はせまい。それ以来、私は「つまらないものですが」と言う言葉を封印した。