住んでいる田舎から東京まで高速バスで10時間くらいかかる。この時の自分の勢いというか行動力には驚く。お金がないとは言え、よく10時間もかけて高速バスで行こうと思ったものだ。今では考えられない。
東京に着いた。
品川駅で待ち合わせたが一向に来ない。メールも返信ない。と思っていた頃、彼から電話がかかった。仕事でトラブルがありまだまだ帰れそうにないと言う。
結局2時間くらいたって、連絡がきた。
「今電車乗りました。」
急にドキドキしてきた。緊張して顔が真っ赤になってきた。急に恥ずかしさが込み上げてくる。どうしよう。急いでキオスクで大きめのマスクを買った。
彼が改札から出てきた。来た!来た!来た!
心臓バクバクだ。
向こうも私に気づいた。あ~!と言って手を上げた後、大きいマスクでギブスした足をひきづりながら近寄ってくる私を見て、ギョッとした顔をした。
彼:すみません。遅くなって。あの。かなり目立ってますよ。足は仕方ないとして、マスクどうしたんですか?風邪ひいたんですか?マスクでかすぎません?
恥ずかしさに耐えきれなくなり、マスクをかけているとはいえないので
私:うん。まあそんな感じ。
彼:とりあえず何か食べましょっか。
その後、近くの居酒屋みたいなところに入った。お互い、手紙の事には触れず他愛もない話を続ける。注文したものが次々に運ばれてくる。マスク取りたくないな~。顔見せるのが恥ずかしい。
私は、一口食べるたびにマスクをする。食べる→マスク→飲む→マスクという今でいうマスク会食のような手法をとった。(10年以上前にこの手法を編み出していた私。今思えば、マスク会食のパイオニア!先駆者だ!)
彼:なんなんですか?その食べ方。ちょうど後ろに指名手配のポスターがあるからめちゃくちゃ怪しいですよ。
私:確かに。顔を見られてはいけない事情がある人っぽいな。でも風邪うつしたら困るし、これでいい。(風邪ではないけど)
マスクで顔が隠れているから普通に今会話できてるけど、とったら顔が引き攣ったり赤面してしまうので途端に普通に話せなくなりそう。
全く関係ない話を延々として、結構時間がたっていた。終電ももう行ってしまった。
まだ何も話せてない。手紙も回収しなくては。
彼:どうします?僕のとこきます?手紙も持って帰るんですよね。あの〜心配しなくても全然そんなんじゃないんで。
私:そんなんわかってるわ~
全然そんなんじゃない空気しかしない。それはそれで虚しい。
タクシーがつかまらず、足をひきづりながら歩いて彼の家に向かった。