最近、職場でスマホのマナーが知らぬ間に解除になっていて、爆音でYouTubeが流れるっていう失態があった。それで、思い出した昔の失敗エピソードをひとつ。
昔、勤めていた会社での話。私は自席でモクモクと仕事していた。この日重要な営業会議があって、他の支店からもお偉いさんが来ていた。この会議が行われているのは女子ロッカーの横にある大会議室。私は関係ないので、事務所で仕事。1時間くらい経った頃、血相を変えて若手の営業男子が事務所に入ってきて言った。
「女子ロッカーからお経が聞こえるんですけど……!!」
はじめは、気のせいかとみんな思っていたけど、だんだんかなりのボリュームになって会議中断してざわついているという。それがどうやら隣から聞こえるっぽいと。
総務の課長が言った。
「お経て。そんなわけないやろ……笑」
みんな事務所にいた人たちもどういうこと?お経ではないやろ?
なにそれ怖い!事務所もざわつく。
「誰か女の人見てきてくれる?」
「私行ってきます。誰も今ロッカーにいないと思いますけどねー」
お経って……そんなん女子ロッカーから聞こえるわけないやろ……と思いながら女子ロッカーに向かう。
ロッカーのドアに近づいた。明らかにお経が聞こえる。
「観自在菩薩〜行深般若波羅蜜多時〜かんじ〜ざいぼ〜さつ ぎょうじんはんにゃ〜は〜ら〜み〜た〜じ〜」
あーーーーーーー!
うぁーーーーーーーーー!
私だーーーーーーーーーーー!
血の気が引いた。私のアラームだ。
急いでIDカードをかざしてロッカーに入る。
自分のロッカーを開け携帯を取り出す。紛れもなく私の携帯からお経が流れていた。
なんで?こんな時間に設定した覚えないし。
その当時、朝どうしても起きられなくて、どうにか起きられる方法を考えてクレージーアラームというアプリを入れていた。普通の曲じゃ起きられない。特別変わったものじゃないと……と、すごい数のアラーム音の中から私お経を設定していたのだ。アラーム音が特殊というだけじゃなく、100回スマホをしっかり振らないと止まってくれない。
焦りすぎて、スマホを振る手が震える。こうしている間も隣の会議室、ロッカーの外ではざわざわ。やばいやばい。なんで100回に設定したんだろう……もう地獄だ。全然止まらない。
止めなければだんだんマックスの音量になって流れるのだ。
必死で振ってたら勢い余って何回も手からスマホが飛んだ。落ちたスマホがバウンドしてロッカーに当たる。
ガーン ガ、ガーン ドーン
お経が流れながらロッカーに物を投げつける大きな音が響く。ただならぬ様子に、横の会議室の面々も、ロッカーの外の外野も一瞬シーンとする。
「なにしてるんだ!大丈夫か!」
「なにが起こってるんだ!」
「他に誰かいるのか?開けなさい!」
ロッカーのドアの前で上司が言った。
「す、すみません!ちょっと今手が離せないです!もうちょっと待ってください!」
「どういうことだ!」
「あの、アラームが……あのですね。アラームが……もうちょっとで……止まると思うんですけど……」般若波羅蜜多〜
あっ!
ガーン!
また落とした。
もうカオスでしかない。
「アラーム?何を言ってるんだ!」
ものすごい緊張感の中、やっとアラームのお経が止まった。
恐る恐るロッカーのドアを開けた。人だかりができていた。
「な、なんとか止まりましたので……」
時限爆弾を止めた英雄のようなセリフを言ってしまった。
少しだけ拍手した人がいたけど、場違いと察したのかすぐやめた。
「す、すみませんでした……アラームがなぜかこんな時間になってしまって…意味がわからないんですけど……ほんとに申し訳ありません……」
「なんでアラームがお経やねん!で、なんで暴れてたん?」
「いや、100回振らないと止まらない仕組みでして……焦って何回も落としまして…それがロッカーに飛んであたりまして……すみません……」
上司とか会議していた偉い人たちは呆れ顔。最低だ。貴重な会議の時間をとめてしまって……ほんとすんません。
その日は、もうあやまってばっかり。他の支店から来た人にはこの支店にはやばい女がいるというイメージが植えついたことだろう。
後で、仲のいい人たちと話したら、大喜利まがいの憶測が飛んでいたらしい。
私が実はイタコで霊をおろして暴れ出したとか、ロッカーに不審者がいて私が格闘していたとか……
なわけねーじゃん。他の人たちからしても、アラームがお経なわけねーじゃん……って思ってただろう。
今さらだけど、電源切ればよかったのに……焦りすぎて完全にテンパってその発想にならなかった私。ほんとアホ。
ほんっとにアラーム音にはみんな気をつけようね。